不思議な壺

サトシの休日は、いつもスマホでゲームをしたり、ネットで買い物をしたり、ほとんどスマホと共に過ごしている。
そんな、ある日の休日、何気に開いたフリマアプリ。
いろんな物が売られていた。その中で、ちょっと、変わった物が売られている。
ひょうたんの形をした壺。
縄文時代の土器のような模様が入っていて値段はそれほど高くない。
商品の説明を見ると「願い事が叶う壺。信じるも信じないもあなた次第」と書いてあった。
サトシは何だか面白そうだと思って購入をポチっと押した。


壺を購入してから1週間が経ちまもなくサトシのもとに、壺が届いた。
壺と一緒に、説明書が入っていた。
説明書を読むと、「ようこそ、新しい世界に!この度はわたしの世界で作ったこの商品をお買い上げいただきありがとうございました。この商品は、願い事を叶えてくれる優れものです。これを手にしたあなたは、お目が高い方だと存じあげます。この商品の使い方は、非常に簡単で、願い事をこの中に伝えればいいだけです。それだけで、いいのです。さあ、早速試してみましょう!あなたの新しい世界の幕開けです。」と書いてあった。
サトシは、半信半疑だったけど、とりあえず試してみようと思い壺の中を見ながら「ラーメンが食べたい」と言ってみた。


しばらくすると、玄関のチャイムが鳴った。サトシが玄関を開けると「毎度ありがとうございます。ラーメンショップ蘭丸です。本日は開店5周年記念キャンペーンで、常連のお客様に無料で新メニューのラーメンをお届けに参りました。今後ともラーメンショップ蘭丸をよろしくお願いいたします。」
と言ってラーメンを置いていった。
サトシはびっくりした「マジか!こんなことある?」
半信半疑のまま、とりあえずラーメンを食べて落ち着くことにした・・・ラーメンは思いの外美味しかった。

ラーメンを食べて落ち着いたサトシは、壺をしげしげ眺めた。
そして、壺の中を覗いてみた・・・水を入れたら花瓶として普通に使えそうだ。

「偶然かぁ?」

サトシは、もう一度試すことにした。
「お金持ちになりたい」

サトシはどうやって、今すぐお金持ちになんてなれるんだろう・・・

など考えながら、またゲームを始めた。

しばらくゲームをやっていると、のどが渇いてきて、コンビニに行くことにした。
玄関を出てコンビニに向かって歩いていると、急に風が吹いてきた。そして風に吹かれて何かが飛んできた。
サトシは、何だろう?と思い拾ってみると、宝くじだった。
「なんだ、宝くじか、誰かがはずれ宝くじを捨てたんだろう・・・」後でゴミ箱に捨てようと思ってポケットに入れた。

コンビニに着いてコーラとポテチを買い、ついでにシュークリームも買った。

コンビニの帰り道、一人の男がいて何かを探している様子だった。
サトシは、その男に「どうしたんですか?」と聞いてみた。
その男は「宝くじを無くしてしまって・・・」と言いながら、辺りを探していた。

サトシは「??宝くじ?・・もしかして、これですか?」とポケットに入れた宝くじを差し出した。
男は、さっとサトシに近づいて、宝くじを確認すると「あった~!いやぁ~ほんとに、ありがとうございましたぁ。ここ、見てください、小さく文字が書いてあるでしょう?私が書いたんです。私のものと分かるようにね」と宝くじを見せてくれた。
宝くじの隅に赤丸で囲んだ福という文字が書かれていた。
男はサトシに「ほんとうに、ありがとうございました」と深々とお辞儀をして立ち去っていった。

家に着くとサトシは、あの宝くじは何等が当たっていたんだろう?
とか、そのまま話を聞いて知らないふりしてればよかったかな?
もしかして、あの宝くじが、お金持ちになることだったのか?だとしたら、願いはどうなるんだ?
とか、あの男の人、ちょっと不思議な感じがしたな・・・とか、いろいろな考えが頭の中に浮かんできた。

それから数日が過ぎたある日、仕事から帰って、くつろいでいると玄関のチャイムが鳴った。
誰だろう?と思ってドアを開けると、宝くじの男がニコニコしながら立っていた。
男は大きなボストンバックを持っている。
「こんばんわ、先日は本当にありがとうございました。あっ、申し遅れました、私、早川省吾というものです。今日は先日のお礼にきました。ちょっと失礼してもよろしいですか?」
サトシは、戸惑いながらも「どうぞ」と部屋にいれた。

省吾は部屋に入るとドカッと重そうなボストンバックを置いて、中を開けた。

そこには、お金がいっぱい入っていた。
「えっ?なっ、なんですか?こ、これは?」

省吾はニコニコしながら「先日のお礼ですよ」と言った。
「でも、何で、こんなに?」

「私は、たまたま宝くじを買いました。それが、たまたま高額当選しまして、当選額全部もらうより、あなたのような正直な方に半分分けた方が喜びが倍になりそうだし・・・実は私、もう、先は長くないので・・・人生最後に誰かを思いっきり喜ばせる事ができたら・・と考えておりました。それで、たまたま宝くじを買って、たまたま高額当選して・・・でも無くしてしまって・・あなたが拾ってくれた・・これはもう、こうするのが私の希望にかなった行動だと思って、あなたを探しあててここにきたのです。どうか、遠慮せず受け取ってください」

サトシは「でも、あなたの家族もいるんじゃないですか?家族のために使ってください」と言うと、省吾は「私に家族はいません、結婚した事もないし、両親はとっくに他界したし、兄弟もいません。ですから、どうぞ受け取ってください」

「分かりました。それほど言うなら、受け取らせて頂きますが、引き換えに、一つあなたの願いを叶えてあげましょう。あなたの願いは何ですか?もっと長生きしたいですか?それとも長生きしなくても、残りの人生誰かと一緒に過ごしたいですか?あなたの願いは?」

省吾は、ちょっと考えた・・
そして「長生きしなくてもいいけど、どうしても忘れられない人がいて、その人がまだ一人でいたなら、残りの人生、その人と過ごしたいかな・・」と言って寂しそうに笑った。

サトシは壺を持ってくると「この中に、その思いを伝えてください」
省吾は、えっ?何っ?という顔をして、でも壺を持つと「私の残りの人生、可奈さんと楽しく幸せに過ごしたい!」と言った。

「きっと、願いは叶いますよ、大丈夫、この壺は願い事を叶える壺ですから」
「ありがとうございます。少しだけ希望が見えました。それでは、突然ながら失礼いたします。」
と言って省吾は帰っていった。

省吾が帰ったあと、サトシはボストンバックを眺めていた。



次の日、サトシは目を覚まし昨夜の事をぼんやり考えていた。
まさに夢のような出来事とは、あのような事をいうんだろうな・・・

部屋の隅に置かれたボストンバック・・・

やっぱり、夢じゃないんだ・・・

もしかして、オレ、お金持ちになった?
すごい事が起きたんじゃない?!

マジ、あの壺、凄すぎる!!

これから、どうしよう?

まずは、ゆっくり落ち着いてコーヒーでも飲もう。

サトシはコーヒーを淹れに台所に行こうとしたら、何となく違和感を感じた・・・何だろう?・・・この違和感は・・・
ふと、部屋を見回すと、昨日まで置いてあったはずの壺が、割れて落ちていた。
えっ?何で割れているの?地震でもあった?
慌てて、壺のかけらを拾おうとしたら、かけらと一緒に、壺の説明書があった。
この、かけらを接着剤でくっつければ、元に戻るかな?まだ、使えるかな?
何気に説明書を、読んでみた・・・・・えっ!

説明書の下の方に米印があり、そこには注意書きとして「この壺を他人に使わせると、割れてしまい効力も無くなってしまうので、絶対他人には使わせないでください」と書いてあった。

サトシは、ちゃんと読んでおけばよかったと後悔し、がっかりした。

しばらく呆然としていたサトシは、気を取り直し、お金持ちになれたわけだし、このお金を使ってどう生きていくか考えようと思った。




月日が流れて3年が経った。
サトシは今、NPO法人を立ち上げ、生活困窮者自立支援事業をやっている。
生活保護を受けられない生活困窮者に住居を貸し与えたり、仕事を紹介したり、いろいろな悩みの相談に乗ったりと、なかなか大変だけどやりがいも感じている。

そんなある日、サトシは仕事を終え、家に帰ってくつろいでいると、玄関のチャイムが鳴った。
誰だろう?と思い玄関を開けると、そこに一人の女性が立っていた。
見知らぬ女性・・何か相談事をしに来たのかな?とサトシは思った。


「初めまして、早川加奈と申します。実は3年前、私の主人と私を引き合わせてくださいましたあなたに今日はお礼を言いたくて、お邪魔させて頂きました。」
サトシは「はぁ・・どうぞ中にお入りください」と言って加奈を部屋にいれた。


「私と主人は、3年前、この家から出てくる主人と偶然バッタリ会いました。それから、お互いこれまでの経緯や思い出話などいろいろ話して、間もなく結婚しました。最初、主人は結婚を拒みました。自分は病気で先がないから、結婚はしないと・・・でも私は主人と主人の残りの人生を一緒に楽しく幸せに暮らしていきたいと言いました。主人は、すごくビックリしてましたが、私に根負けして結婚する事にしました。主人との結婚生活は、とても楽しく幸せでした・・・ちょうど、3か月前、主人はあまり苦しまず幸せそうな表情でこの世を去りました。主人が亡くなる前に、願いは叶いました。本当にありがとうと、あなたに伝えてください。と私に言い残して逝ったのです。主人に変わってあらためて、お礼申し上げます。」と深々と頭を下げた。

「いやいや、僕の方こそ、あなたのご主人のおかげで、今の自分があります。こちらこそ、ありがとうございました。そしてご主人のご冥福をお祈りいたします。」
加奈は、サトシが淹れたコーヒーを飲み干すと、「それでは突然ながら失礼いたします」と言って帰っていった。
加奈が帰った後、サトシは、何か見覚えのあるシーンだな・・と思った。
そして、いろいろな思いが湧いてきた。
省吾さん、願いが叶ったんだ・・・残りの人生幸せに過ごせてよかった・・・

あっ!そういえば、あの時省吾さんも同じセリフ言ってた!!
「それでは突然ながら失礼いたします」



きっと、そうだったんだ・・・一緒にいたんだ・・・